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『電波』

眼が醒めると同時に聞こえてきた。
「やっと起きたか、この糞野郎。いつまでもいつまでも無駄に寝やがって」
「う・・うるせえ。」
小さい声で怒声を放ってみたが、俺が「電波」と呼んでいるこの声には、逆らえないことを、何度も身に染みて感じさせられている。
「さあ、外に出るんだ。包丁を持って、な。」
「昨日から何度も言ってるだろう。俺にはできねえよ。人殺しなんて」
「お前はだから、駄目野郎なんだよ。そうやって人から馬鹿にされ続けたまま、一生を終える気かよ。さあ、外に出るんだ。出てよ、でかいことをやって、世間をアッと言わせてやるんだよ」
「い・・嫌だ。そんなことしたら、警察に捕まって、一生、刑務所暮らしだ、へ・・下手をすると・・・死刑だ・・・・。」
「俺の言うことが聞けねえのか?」
「電波」がそう言ったとたん、猛烈な頭痛が俺を襲う。
まるで鉄のタガで頭をしめつけられるようなその痛みに耐え切れず、「わかった、わかったよ!」と叫ぶしかなかった。

晒しを巻いた刺身包丁を懐に呑んで、俺は商店街を歩いていた。
昼前のアーケードは人通りが少なく、歩いているのは、年寄りばかりだ。
「どうした?何をしてる?さっさとやれよ。やってしまうんだよ。」
さきほどから「電波」は、頻りに俺に「決行」を促していたが、俺は一歩を踏み出せずにいた。それを押し留めているのは、俺のなかにまだ僅かに残っている「理性」とかいうやつだったのかもしれない。
また、あの頭痛が襲ってきた。
俺は呻き声をあげて、その場にうずくまった。
「大丈夫ですか?」
声のした方を振り返ると、ひとりのスーツを着た中年の紳士が立っていた。
頭痛は、その途端に消えた。

渡された名刺に書かれた「よろず悩み相談室長」という、きわめて胡散くさい肩書きに、俺はすがりたくなって、その紳士に誘われるまま、傍らにあった喫茶店に入った。
「どんなことでお悩みでしょう?なんでもおっしゃってみてください。お力になれると思います。」
向かい合った紳士は柔和な笑みをたたえながら、俺に尋ねた。
俺はその笑顔にひきこまれるように、洗いざらい打ち明けた。
一ヶ月ほど前から「電波」が俺を批判したり、馬鹿にしたり、やりたくないことをやらせたり、とんでもないことを命令したり、逆らえば猛烈な頭痛を引き起こすことを。そして、ついに無差別殺人を命令するようになったことを。
「そうですか・・」
紳士は聞き終わって、ため息をつくように言った。
「あんたもきっと・・」俺は投げやりな口調で言った。「今まで相談した何人かの知り合いと同じように、病院へ行けなどと言うんだろうな」
「そんなことは言いませんよ」紳士はふたたび笑って言った。「心当たりがあります。一緒に来ていただけませんか?」

紳士の運転する車は、高速に入り、一時間ほどして、あるインターを降りた。
半信半疑についてきた俺は、黙って後部座席のシートにうずくまっていた。
すると、電波の声が、また聞こえてきた。
「行くんじゃねえ。行くのはやめろ」
「う・・・うるせえ!」俺は叫んだ。
「どうしました?」
運転する紳士が尋ねてきた。
「また、電波の野郎が・・」
「声はどこから聞こえてきます?」
「前の方・・、この車が向かっている方向だ」
「どうやら間違いなさそうですね。最近の凶悪犯罪のほとんどは、やつらの仕業だ」
「ど・・どういうことだ?」
しかし、紳士はそれには答えず、「説明してる暇はありません。声のする方向まで道案内してくれませんか?」

電波が頻りに俺を罵るその声の方向にしたがって、俺は道案内をした。
車はやがて、小暗い森に入った。
これ以上、車が進めないという地点で降りて、俺たちはけもの道に歩を進めた。
「まだですか?」
紳士の問いに俺は答えた。
「もうすぐだ」
と、そのとき、「キエー!」という、猿の叫びみたいな声がして、樹上から、数人の黒装束の男が飛び降りてきた。

紳士は彼らの前に立ちはだかった。
「やはり、お前たちの仕業か。ひとびとの脳に電波を送り、凶悪犯罪を犯させる。ずいぶんと、地味な地球征服計画だな。」
紳士はそう言ったあと、両手を旋回させ
力こぶをつくるような形で止めた。
そして、叫んだ。
「ヘーンシン!」

奇声を発して最初に襲ってきたショッカーのひとりの黒い顔面に、ライダーキックが正確にヒットした。

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